科学者と夜店商人
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)匍《は》い出さずには
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|糎《センチ》立方位の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あら[#「あら」に傍点]を
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こう暑くなっては、科学者もしぶしぶと実験室から匍《は》い出さずにはいられない。気温が華氏八十度を越えると脳細胞中の電子の運動がすこし変態性を帯びて来るそうだ。そんなときにうっかり忘我的研究をつづけていると、電子はその変態性をどんどん悪化させ、遂には或る臨界点を過ぎてしまった。再び頭脳は常態に復帰しないそうだ。そうなると病院の檻の中に実験室をうつさなければならないので、さてこそしぶしぶと実験室を匍い出たわけである。
ムンムンする蒸し暑い夜だった。実験をやることも書物を読むことも許されないと、一層暑さが身にこたえるようだ。家へ帰っても今から寝るわけにも行かないが、一先ず帰宅をしようと思って十日ぶりに我家(とは名ばかりの郊外の下宿の一室)へ首《かしら》をたてなおした。
彼の下宿は、中央線の中野駅を降り
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