りかえすことを発見した。そこへ梯子段をミシミシいわせて上って来た下宿の女将《おかみ》が頓狂な声を張りあげた。
「先生は、鵜烏の水くぐりを夜店でお売りになるのですか」
「ソ、そうじゃない。之を御覧、不思議な総合現象だ。全く新しい実験だ」
「いやですよ、先生。こんなものは、もう三年も前からありますよ、先生」
「……」
 女将がズシリズシリと階下《した》へ降りて行ってしまうと、科学者は深い歎息をして、独り言を言った。
「物理《フィジーク》や化学《ケミー》をやっている科学者には、生物学なんてニガテだな」



底本:「海野十三全集 別巻2 日記・書簡・雑纂」三一書房
   1993(平成5)年1月31日第1版第1刷発行
初出:「科学画報」誠文堂新光社
   1929(昭和4)年8月号
※この作品は初出時に署名「佐野昌一」で発表されたことが、底本の解題に記載されています。
入力:田中哲郎
校正:土屋隆
2005年1月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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