特許局から出ている審決文中の珍なるものを一つ拾い出して御覧に入れる。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
「大正十四年|特許願《とっきょねがい》第六五一七号|拒絶査定《きょぜつさてい》不服抗告審判事件ニ付査定スルコト左ノ如シ。
[#ここから1字下げ]
主文。原査定ヲ破毀《はき》ス。
飯粒ノ附着セサル弁当箱ハ特許スヘキモノトス[#「飯粒ノ附着セサル弁当箱ハ特許スヘキモノトス」に傍点]。」
[#ここで字下げ終わり]
「飯粒の附着せざる弁当箱」という文句を読むと、「飯粒の附着していない弁当箱」という意味にとれる。飯を食った後で洗ってしまえば弁当箱には飯粒は附着していないはずである。これが何《ど》うして特許になるのか不思議に思うが、さて其の真意は――。
飯を弁当箱につめ込んで、然るのちこれを取出しても、あとに飯粒が弁当箱の底や周壁に附着(寧《むし》ろ固着)することのない弁当箱。――という意味で、アルミ弁当箱の内側にゼラチンのようなものをひいて置くと、奇妙に飯粒が附着しないことを覘《ねら》った特許願である。
種を明かして仕舞えば何でもないが、兎も角も「飯粒ノ附着セサル弁当箱ハ特許
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