の様を眺めわたしますと、何かこう暗い塗籠《ぬりごめ》から表へ出た時のように眼《まなこ》が冴《さ》え冴《ざ》えとして、あの建武《けんむ》の昔二条河原の落書《らくしょ》とやらに申す下尅上《げこくじょう》する成出者《なりでもの》の姿も、その心根の賤《いや》しさをもって一概に見どころなき者と貶《おと》しめなみする心持にもなれなくなります。今までは只《ただ》おぞましい怖《おそろ》しいとのみ思っておりました足軽《あしがる》衆の乱波《らっぱ》も、土一揆《つちいっき》衆の乱妨も檀林巨刹《だんりんきょさつ》の炎上も、おのずと別の眼《まなこ》で眺めるようになって参ります。まことに吾《われ》ながら呆《あき》れるような心の移り変りでございました。……
その間にも戦さの成行きは日に細川方が振わず、勢《いきおい》を得た山名《やまな》方は九月|朔日《ついたち》ついに土御門万里《つちみかどまで》の小路の三宝院に火をかけて、ここの陣所を奪いとり、愈々《いよいよ》戦火は内裏《だいり》にも室町殿にも及ぼう勢となりました。その十三日には浄華院の戦さ、守る京極《きょうごく》勢は一たまりもなく責め落され、この日の兵火に三宝院の
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