の脛当の役目を知っているので、彼には別に滑稽ともなんとも思えない。馬上の兵たち……いやしくもそこにいる限りの者は残らず、機械的に革鞭を振りあげたり、時おり大声を張りあげたりしている。御本尊の大砲にしてからが、みっともない恰好だった。砲の前車には燕麦の袋が積込まれて、それに防水布の覆いがかけてあるし、砲身はというと、べた一面に茶沸かしだの、兵隊の背嚢だの小嚢だのが吊り下げられて、その有様たるやさながらに、どうしたわけだか人間や馬にひしひしと取巻かれてしまっている小っちゃな無害の動物といった恰好である。砲の両側には、風しもの方から、両手をやけに振りながら、六人の砲手がのっしのっしと歩いている。その大砲のあとには、またもや別の前駆や、乗馬兵や、後馬の行列がはじまり、その後からまた別の、といっても最初の奴に劣らずみっともなくもあれば貧相でもある大砲が曳かれてゆく。この第二の砲のあとに第三、第四の砲がつづき、四番目の砲のまわりに将校その他が進んでゆく。旅団には中隊が全部で六個あり、中隊ごとに砲が四門ある。といった次第でこの行列は蜿々四五町にわたっているのだ。殿《しんが》りをつとめるのは輜重《しち
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