思うがいいぜ。」
「だって、すこしも」と家内はすましたもので、――「空恐ろしいことなんかありませんわ。何しろわたしは、二人ともよく知っていますもの。弟さんはあの通り立派な紳士だし、マーシャはマーシャで、あの通り可愛いらしい娘ですしさ。おまけに二人は、ああしてお互いの幸福のため一生けんめい尽しますって約束した以上、きっと約束は守るにちがいないわ。」
「な、なんだって!」と、僕はわれを忘れて情けない声を立てた、――「あの二人は、もう約束までかわしたのかい?」
「ええ」と家内は答える、――「そりゃあ、まだ口に出してこそ言わなかったけど、そこは以心伝心というものよ。二人とも趣味も好尚もぴったり合ってるわ。だからわたし、今晩弟さんと一緒に先方へ出かけていって来ますわ。――弟さんはきっと老人夫婦の気に入るにちがいないし、その先は……」
「へえ、その先は?」
「その先は、二人でいいようにすればいいわ。ただね、余計な口を出さないで下さいよ。」
「いいとも」と僕はいう、――「いいとも。そんな馬鹿馬鹿しい問題に口を出さずにいられるのは、すこぶる有難い仕合わせだよ。」
「馬鹿げたことなんかになるもんですか。
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