のぎらつくやうな眼のなかを一心に覗《のぞ》きこんだといふではないか。つかのまの幻覚だつたのだらうか。……それにしても姉さまがあの瘠《や》せこけた小柄な古島さんをしつかり掴《つか》まへて、上からしげしげと覗きこんでゐる図を目に浮べてみると、妙に切ない、それでゐて何かしら笑ひだしたくなるやうな感じを、どうにもできないのでした。千恵はしだいにこつちまで頭が変になつてくるやうな気がしました。
二三日たつて、千恵はまたN会堂へ行きました。それからまた一度、もう一度。……帰りの電車のなかでは、もう決して足ぶみもしまいと決心するのですが、暫《しばら》くするとまた例の謎《なぞ》がだんだん膨《ふく》れあがつて、ついまたふらふらと誘ひ寄せられてしまふのです。古島さんには行会ふ時も行会はない時もありました。本堂の扉はまるでわざとのやうに、いつもぴつたり閉ぢてゐました。いいえ、一度だけ扉がひろびろと開け放されてゐたことがありましたが、その日は何かお葬式でもあるらしい様子で、黒の盛装をした外国人の男女が急がしさうに出たりはいつたりしてゐました。その外国人は、盛装をしてゐるため却《かえ》つて変に貧しさが目につく
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