げたほうがいい。……行こうや。……(腕をかかえて。広間へ連れ去る)
ロパーヒン どうしたんだ? 楽隊、しっかりやらんか! なんでも、おれの注文どおりやるんだ! (皮肉に)新しい地主のお通りだ、桜の園のご主人さまのな! (うっかり小テーブルにぶつかり、枝付|燭台《しょくだい》をひっくり返しそうになる)なんでも代は払ってやるぞ! (ピーシチクとともに退場)

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広間にも客間にも、ラネーフスカヤ夫人のほか誰もいない。彼女は腰かけたなり、全身をすぼめて、はげしく泣いている。ひそやかな奏楽の音。いそぎ足でアーニャとトロフィーモフ登場。アーニャは母のそばへ寄り、その前にひざまずく。トロフィーモフは、広間の入口に立つ。
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アーニャ ママ! ……泣いてらっしゃるの、ママ? いとしい、親切な、やさしい、ママ。わたしの大事なママ、わたしあなたを愛していますわ。……わたし、お祝いを言いたいの。桜の園は売られました、もうなくなってしまいました。それは本当よ、本当よ。でも泣かないでね、ママ、あなたには、まだ先の生活があ
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