を、見せようっていうんだな。……(鍵束をがちゃつかせる)ふん、まあどっちでもいい。(オーケストラの調子を合せる音がきこえる)おおい、楽隊、やってくれ、おれが聴いてやるぞ! みんな来て見物するがいい、このエルモライ・ロパーヒンが桜の園に斧《おの》をくらわせるんだ、木がばたばた地面へ倒れるんだ! どしどしここへ別荘を建てて、うちの孫や曾孫《ひいまご》のやつらに、新しい生活を拝ませてやるぞ。……楽隊、やってくれ!

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音楽がはじまる。ラネーフスカヤ夫人は椅子に沈みこんで、はげしく泣く。
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ロパーヒン (責めるように)一体なぜ、なんだってあなたは、わたしの言うことを聴かなかったんです? わたしの大事な奥さん、お気の毒ですが、今となってはとり返しがつきません。(涙ぐんで)ああ早く、こんなことが過ぎてしまえばいい。なんとかして早く、今のようながたぴしした、面白《あもしろ》くもない生活が、がらりと変ってしまえばいい。
ピーシチク (彼の腕をかかえて、小声で)この人は泣いてるよ。な、広間へ行こう、一人にしてあ
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