祖父さんも、もっと前の先祖も、みんな農奴制度の讃美者《さんびしゃ》で、生きた魂を奴隷《どれい》にしてしぼり上げていたんです。で、どうです、この庭の桜の一つ一つから、その葉の一枚一枚から、その幹の一本一本から、人間の眼《め》があなたを見ていはしませんか、その声があなたには聞えませんか? ……生[#「生」に「*」の傍記]きた魂を、わが物顔にこき使っているうちに――それがあなたがたを皆、むかし生きていた人も、現在いきている人も、すっかり堕落させてしまって、あなたのお母さんも、あなたも、伯父さんも、自分の腹を痛めずに、他人《ひと》のふところで、暮していることにはもう気がつかない、――あなた方が控室より先へは通さない連中の、ふところでね。([#ここから割り注]訳注 *以下は上演当時の検閲のため削除されたので、一九〇四年の初版本には、次のように言いかえられていた。――「ああ、怖ろしいことだ、お宅の庭は不気味です。晩か夜なかに庭を通り抜けると、桜の木の古い皮がぼんやり光って、さも桜の木が、百年二百年まえにあったことを夢に見ながら、重くるしい幻にうなされているような気がします。いやはや、まったく!」[
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