もしや恋仲になりはしまいかと警戒して、毎日、朝から晩まで、ああして付きっきりなんだ。あの人は、自分の狭い料簡《りょうけん》で、われわれが恋愛を超越していることがわからないんだ。われわれの自由と幸福をさまたげている、あのけちくさい妄想《もうそう》を追っぱらうこと、これが僕らの生活の目的であり意義なんです。進みましょう、前へ! 僕らは、はるか彼方《かなた》に輝いている明るい星をめざして、まっしぐらに進むのだ! 前へ! おくれるな、友よ!
アーニャ (手をたたいて)すてきだわ、あなたの話! (間)今日、ここはなんていいんでしょう!
トロフィーモフ そう、すばらしい天気です。
アーニャ あなたのおかげで、わたしどうかしてしまったわ、ペーチャ。なぜわたし、前ほど桜の園が好きでなくなったのかしら? あんなに、うっとりするほど好きだったのに、――この世に、うちの庭ほどいい所はないと思っていたのに。
トロフィーモフ ロシアじゅうが、われわれの庭なんです。大地は宏大《こうだい》で美しい。すばらしい場所なんか、どっさりありますよ。(間)ね、思ってもご覧なさい、アーニャ、あなたのお祖父《じい》さんも、ひいお
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