エフ 不幸の前というと?
フィールス 解放令の前でございますよ。(間)
ラネーフスカヤ ねえ皆さん、うちへはいりましょうよ、日が暮れてきたわ。(アーニャに)まあ、涙なんか溜《た》めて……。どうかしたの、アーニャ? (抱きよせる)
アーニャ なんでもないの、ママ。ただ、ちょっと。
トロフィーモフ 誰《だれ》か来る。
[#ここから2字下げ]
浮浪人が出てくる。古ぼけたヒサシ帽をかぶり、外套《がいとう》をまとい、少し酔っている。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
浮浪人 ちょっとお尋ねしますが、ここをまっすぐ、停車場へ出られますかね?
ガーエフ 出られますよ。その道をお行きなさい。
浮浪人 ご親切に、おそれ入ります。(咳《せき》ばらいをして)まことによいお天気で……(朗読する)はらからよ、苦しみ悩むはらからよ。……出《い》でてみよ、ヴォルガのほとり、聞ゆるは誰の呻《うめ》きぞ。([#ここから割り注]訳注 ネクラーソフの詩より[#ここで割り注終わり])……(ワーリャに)マドモワゼル、この飢えたるロシアの民に、三十コペイカほどどうぞ……
[#ここから2
前へ
次へ
全125ページ中63ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング