は、次のようにぼかされていた。――「その一方、われわれの大多数、百中の九十九までが、野蛮人みたいな暮しをして、何かといえば――すぐぶんなぐる、罵倒する、ひどい物を食って、息のつまるような汚ない所に寝て」[#ここで割り注終わり])どこもかしこも南京虫と、鼻をつく悪臭と、ひどい湿気と、道徳的腐敗ばかりです。……で、われわれのやる麗々しい会話はみんな、ただ自分や他人の眼をくらまさんためであることは、言わずして明らかです。ひとつ教えていただきたい、――あれほどやかましく喋々《ちょうちょう》されている託児所は、一体どこにあるんです? 読書の家は、どこにあります? それは小説に出てくるだけで、実際は全然ありゃしない。あるのはただ、泥《どろ》んこと、俗悪と、アジア的野蛮だけだ。……僕は、真面目くさった顔つきが、身ぶるいするほど嫌《きら》いです。真面目くさった会話にも、身ぶるいが出る。いっそ黙っていたほうがましですよ。
ロパーヒン いや、わたしはね、毎朝四時すぎに起きだして、朝から晩まで働きづめでしょっちゅう自分や他人の金を扱っているが、見れば見るほど、まわりの人間が厭《いや》になるね。何かちょいと新
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