にました――お酒に目のない人でしたからね。そのうえまた不幸なことに、わたしはほかの男を恋して、一緒になったの。すると、ちょうどその時、――これが最初の天罰で、真っ向からぐさりと来たのが、――ほら、あすこの川で……坊やが溺《おぼ》れ死んだことでした。そこでわたしは、外国へ発《た》ったの。発ちっぱなしで、もう二度と帰ってはこまい、あの川も見まい、とおもってね。……わたしが眼《め》をつぶって、無我夢中で逃げだしたのに、あの人[#「あの人」に傍点]は追っかけてきたの……情けも容赦もなくね。わたしがマントンの近くに別荘を買ったのも、あの人[#「あの人」に傍点]があそこに病みついたからで、それから三年というもの、わたしは夜《よ》も日もホッとするひまがなかった。病人にいびり抜かれて、心がカサカサになってしまいました。とうとう去年、借金の始末に別荘が人手にわたってしまうと、わたしはパリへ行きました。そこで、わたしから搾《しぼ》れるだけ搾りあげた挙句《あげく》、あの人はわたしを捨てて、ほかの女と一緒になったの。わたし毒をのもうとしました。……われながら浅ましい、世間に顔向けならない気がしてね。……ところ
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