がって、へいつくばる物なんか皆、ぼくにとっちゃこれっぽっちの権威もない。空中にふわふわしている綿毛も同然さ。僕は、君たちの世話にはならん、君たちがいなくたって立派にやって行ける。僕は強いんだ、誇りがあるんだ。人類は、この地上で達しうる限りの、最高の真実、最高の幸福をめざして進んでいる。僕はその最前列にいるんだ!
ロパーヒン 行き着けるかね?
トロフィーモフ 行き着けるとも。(間)自分で行き着くか、さもなけりゃ、行き着く道をひとに教えてやる。
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遠くで、桜の木に斧《おの》を打ちこむ音がきこえる。
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ロパーヒン じゃ君、ご機嫌《きげん》よう。もう出かける時刻だ。われわれお互いに、高慢そうな鼻つき合せちゃいるけれど、時は遠慮なく、どんどん過ぎて行く。長いあいだつめて、疲れも知らず働いていると、わたしは頭のシコリがとれて、自分がなんのため生きているのか、それがわかるような気がする。それにしても君、このロシアにゃ、なんのためとも知れず生きている人間が、ずいぶんいるなあ。いや、まあどうでもいい、問題の流
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