ン だって、ないじゃないか!
トロフィーモフ あるさ。お志はありがとう。ぼくは翻訳料をもらったんだ。ちゃんとこのポケットにある。(心配そうに)しかし、オーバーシューズがないんだ!
ワーリャ (隣の部屋から)さっさと持ってって頂だい、この汚ならしいもの! (ゴムのオーバーシューズを一足、舞台へほうり出す)
トロフィーモフ 何をそう怒るんです、ワーリャ? ふん……こりゃ僕の〔オーバーシューズ〕じゃない!
ロパーヒン わたしはこの春、ケシを千町歩まいてね、今それで純益が四万あがった。そのケシが咲いた時にゃ、なんとも言えん眺《なが》めだったよ! まあそんなわけで、四万もうけたから、それでつまり貸したげようというのさ。できることだから言うのだ。何もそう乙に構えなくてもいいじゃないか? わたしは百姓だ……ざっくばらんさ。
トロフィーモフ 君の親父《おやじ》が百姓で、僕の親父が薬屋だった、――といったところで、別にどうもこうもありゃしない。(ロパーヒン紙入れを取りだす)やめてくれ、やめて。……たとえ二十万だしたって、受けとらないから。僕は自由な人間なんだ。君たちみんなが、金持も貧乏人も一様にありがた
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