ジェイン・グレイ遺文
神西清
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)御宇《ぎょう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)御教育|掛《がかり》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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チュドル王朝第三代エドワアド六世の御宇《ぎょう》のこと、イングランドのほぼ中央リスタアの町に程遠からぬ、ブラッドゲイト城の前庭を、のちのエリザベス女王の御教育|掛《がかり》、碩学《せきがく》ロウジャ・アスカムが横ぎつて行く。季節は卯薔薇《うばら》の花乱れ咲く春、それも極くのどかな午《ひる》さがりと思ひたい。霧の深い秋のことではなかつたらう。アスカムの齢《とし》は三十六か七か、それにしては悠々たる足どり。やがて城を登る。が、小肥《こぶと》りの躯《からだ》をつつむ寛《ゆる》い黒衣の影を石階の日溜《ひだま》りに落したまま、暫《しば》しは黙然と耳を澄ます。遥かチャアンウッドの森を伝つて来る笛の音こそ、城の主、のちのサフォオク公ヘンリイ・グレイが、奥方はじめ一統を引き連れての、徒然《つれづれ》の狩遊びと見えた。四つの櫓《
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