園長はしゅろの木をのこぎりでひいてしまえと言いつけました。『あの上にもうひとつ別の円屋根を建て増してもいいが』と、園長は申しました、『だがそれも長いことはあるまい。あの木はまた伸びて行って、やっぱりこわしてしまうだろうよ。それにまた建て増すとなれば、お金もどっさりかかるからなあ。面倒だ、ひいてしまえ。』
しゅろは太い綱で縛りあげられました。倒れるとき温室の壁をこわさないための用心でした。そしてすぐ根元のところから、のこぎりでひかれてしまいました。その幹に巻きついていたあの小さなつる草は、どうしても友だちと離れたがらなかったので、やっぱり一緒にのこぎりの歯にかかってしまいました。やがてしゅろが温室からひき出されたとき、あとに残った切株のうえには、のこぎりの歯に引きちぎられ、ずたずたになったつる草の茎や葉が、みだれ伏しておりました。
「このろくでなしも引っこ抜いて、捨ててしまうんだ」と、園長は申しました、「もう黄色っぽくなっているし、それにのこぎりの歯でひどくいたんでしまった。ここには何かほかの草を植えようよ。」
園丁の一人が手ぎわよく根もとへくわを入れて、一とかかえもあるつる草をぐ
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