葉を振り落として、なんだかみっともない死人のような姿をしておりました。松ともみの木だけは、暗い緑色の針葉をつけておりました。そうした木々が、陰気なまなざしでしゅろをながめているのでした。『凍え死んじまうぞ!』と、木々は彼女に言っているようでした、『お前は北国の寒さがどんなものだか、知りはしないのだ。お前はとても辛抱はできまいよ。せっかく温室にいたものを、なんだってまた出て来たんだ!』
 そこでアッタレーアは初めて、とり返しのつかない事をしてしまったと悟りました。彼女は凍えそうに寒かったのです。また屋根の下へ帰ってはどうでしょう? けれど今となっては、もはや帰るすべもないのです。彼女は寒い風の吹きすさぶなかにたたずんだまま、どっと押しよせる風の重さや、ひりひりと膚《はだえ》をかすめる粉雪の痛さをじっと忍びながら、きたならしい色をした空や、みすぼらしい北国の自然や、植物園のむさくるしい裏庭や、さ霧のかなたに見えがくれする単調な大都会のたたずまいやを、ながめていなければならないのです。下界の温室のなかで、人間たちが自分のあと始末を相談しているあいだ、そうして待っていなければならないのです。

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