くれれば、徒刑地への道中も幸福に光りかがやくのである。
カテリーナ・リヴォーヴナが縞の麻袋に入れて持って出た金目のものは、ほんの僅かだったし、現金に至っては尚更のこと少なかった。しかもそれをみんな、まだニジニ・ノーヴゴロドにも着かない先に、護送の下士どもにばらまいてしまった、道中をセルゲイと肩をならべて歩かせてもらい、闇の夜には囚人駅舎の寒い廊下の隅っこに彼と抱きあって小一時もいさせてもらう――その目こぼしにあずかるためにである。
ただし、カテリーナ・リヴォーヴナの焼印つきの情夫は、どうしたものかひどくつれない態度を見せるようになった。何か言いかけては、ぶつりと黙りこんでしまう。こっそり逢う瀬を楽しみたいばかりに、彼女が飲まず食わずで我慢して、ともしい財布の底から虎の子の二十五銭玉を呉れてやっているのに、セルゲイは大して嬉しい顔を見せないばかりか、却ってこう言い言いしたものだった。
「なあお前さん。こんな廊下の隅っこへ俺とべたつきに出てくるよか、その下士にやった銭を俺によこしたらいいになあ。」
「たった二十五銭しかやりゃしないのよ、セリョージェンカ」と、カテリーナ・リヴォーヴナが言
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