一体どんなふうに焦がれてたのさ? それを話してお聞かせな。」
「話してきかせろったって、じゃどう言やいいんだい? 焦がれるの何のということが、口で講釈できるものだとでもいうのかい? 恋しかったんだよ、おいら。」
「でもさ、セリョージャ、それほどお前さんが思いつめていてくれたものを、あたしがどうして感じずにいたんだろうねえ。だってほら、世間でよく以心伝心なんて言うじゃないか。」
セルゲイは無言だった。
「一たいお前さん、あたしがそんなに恋しかったのなら、なぜあんなに面白そうに唄ばかり歌ってたのさ? だってあたし、納屋の差掛のところで歌っている声がよく聞えて来たものだけれど、あれはきっとお前さんの声だったに違いないもの」と、相かわらず甘えながら、カテリーナ・リヴォーヴナは問いつづけた。
「唄ぐらい歌ったって構わねえじゃないか? 蚊とかブヨとかいう奴は、生まれるとから死ぬまで歌っているけれど、何も嬉しくって歌うわけじゃあるまいぜ」と、セルゲイは素気なく答えた。
話がとだえた。カテリーナ・リヴォーヴナは、はからずもセルゲイの胸中を聞き知って、天に昇らんばかりの法悦にひたるのだった。
彼女
前へ
次へ
全124ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング