、旦那。泊った場所なら、それもあっしは確かに知っちゃおりますがね。ところで、これは念のため申しあげときますがね、ボリース・チモフェーイチ、いいですかい、――一たん引っくら返った水は、元へ戻りゃしませんとさ。まあ一つ、先祖代々のノレンに疵のつかないように、せいぜい御用心を願いやすぜ。さてそこで、あっしをどうなさるおつもりかね? どうしたらおなかの虫が収まるんですかい?」
「ええ、この毒へびめが、鞭を五百も喰らわせてやろうわい」とボリース・チモフェーイチ。
「こっちの越度《おちど》だ――どうなりと存分に願いやしょう」と、若者はあっさり折れて出て、「さあ、どこへなりとお伴しますぜ。そして好きなだけ、あっしの血をすすりなさるがいいさ。」
 ボリース・チモフェーイチは、セルゲイを自分の小さな石倉へ引っぱっていって、革むちでもって、自分がへとへとになるまで打ちすえた。セルゲイは呻きごえ一つ立てなかったが、その代り自分のルバーシカの片袖を半分ほど、歯でぼろぼろに咬みしだいてしまった。
 ずく鉄みたいにまっ赤に腫れあがった背中が、なんとか元どおりに直るまでのあいだ、ボリース・チモフェーイチはセルゲイに
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