にとって悲劇の種になったのだった。
※[#ローマ数字14、94−2]
一つに合わさった囚人隊はニジニ・ノーヴゴロドをたって、カザンをさして進みはじめたが、そうしてまだ三日とたたぬうちから、セルゲイが目に見えて兵隊の女房フィオーナの機嫌をとりだし、めでたく肘鉄砲を食わずに済んだ。悩ましげな眼をした美女フィオーナは、持前の気の好さから、今日まで誰にも悩みを与えなかったと同様に、セルゲイをも悩まさなかったのである。三度目か四度目の宿営地に着いた日、カテリーナ・リヴォーヴナは薄暗くなるかならなぬうちから例の袖の下を使って、可愛いセリョージェチカとの逢曳の手筈をととのえ、一まず横にはなったが眠らずにいた。当番の下士がはいって来、そっと自分の小脇をつつき、『おい早く行け!』と耳うちしてくれるのを、今か今かと待ち構えていたのだ。戸が一度あいて、どの女だかすばやく廊下へ姿を消した。もう一ぺん戸があいて、やがてまた板どこから跳び起きてやはり案内人のあとについて消え失せた女囚があった。暫くするとやっとのことで、カテリーナ・リヴォーヴナのすっぽりかぶっている外套が、ぐいと引かれた。若い女は
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