に頓《とみ》に力《ちから》を得《え》て、氣《き》が強《つよ》くなり。『俺《おれ》は用《よう》が有《あ》るのだ! 出《で》るのだ! 貴樣《きさま》に何《なん》の權利《けんり》が有《あ》る! 出《だ》せと云《い》つたら出《だ》せ!』
『解《わか》つたか馬鹿野郎《ばかやらう》!』と、イワン、デミトリチは叫《さけ》んで、拳《こぶし》を固《かた》めて戸《と》を敲《たゝ》く。『やい開《あ》けろ! 開《あ》けろ! 開《あ》けんか! 開《あ》けんなら戸《と》を打破《ぶちこは》すぞ! 人非人《ひとでなし》! 野獸《けだもの》!』
『開《あ》けろ!』アンドレイ、エヒミチは全身《ぜんしん》をぶる/\[#「ぶる/\」に傍点]と顫《ふる》はして。『俺《おれ》が命《めい》ずるのだツ!』
『もう一|度《ど》言《い》つて見《み》ろ!』戸《と》の那裏《むかふ》でニキタの聲《こゑ》。『もう一|度《ど》言《い》つて見《み》ろ!』
『ぢや、エウゲニイ、フエオドロヰチでも此處《こゝ》へ呼《よ》んで來《こ》い、些《ちよつ》と俺《おれ》が來《き》て呉《く》れツて云《い》つて居《ゐ》ると然《さ》う云《い》へ……些《ちよつ》とで可《い》いからツて!』
『明日《あした》になればお出《い》でになります。』
『何日《いつ》になつたつて我々《われ/\》を決《けつ》して出《だ》すものか。』イワン、デミトリチは云《い》ふ、『我々《われ/\》を茲《こゝ》で腐《くさ》らして了《しま》ふ料簡《れうけん》だらう! 來世《らいせい》に地獄《ぢごく》がなくて爲《な》るものか、這麼人非人共《こんなひとでなしども》が如何《どう》して許《ゆる》される、那樣事《そんなこと》で正義《せいぎ》は何處《どこ》にある、えい、開《あ》けろ、畜生《ちくしやう》!』彼《かれ》は嗄《しやが》れた聲《こゑ》を絞《しぼ》つて、戸《と》に身《み》を投掛《なげか》け。『可《い》いか、貴樣《きさま》の頭《あたま》を敲《たゝ》き破《わ》るぞ! 人殺奴《ひとごろしめ》!』
 ニキタはぱツと戸《と》を開《あ》けるより、阿修羅王《あしゆらわう》の荒《あ》れたる如《ごと》く、兩手《りやうて》と膝《ひざ》でアンドレイ、エヒミチを突飛《つきとば》し、骨《ほね》も碎《くだ》けよと其鐵拳《そのてつけん》を眞向《まつかう》に、健《したゝ》か彼《かれ》の顏《かほ》を敲《たゝ》き据《す》ゑた。ア
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