毎日《まいにち》ミハイル、アウエリヤヌヰチの擧動《きよどう》に弱《よわ》らされ、其《そ》れが鼻《はな》に着《つ》いて、嫌《いや》で、嫌《いや》でならぬので、如何《どう》かして一|日《にち》でも、一|時《とき》でも、彼《かれ》から離《はな》れて見《み》たく思《おも》ふので有《あ》つたが、友《とも》は自分《じぶん》より彼《かれ》を一|歩《ぽ》でも離《はな》す事《こと》はなく、何《なん》でも彼《かれ》の氣晴《きばらし》をするが義務《ぎむ》と、見物《けんぶつ》に出《で》ぬ時《とき》は饒舌《しやべ》り續《つゞ》けて慰《なぐさ》めやうと、附纒《つきまと》ひ通《どほ》しの有樣《ありさま》。二|日《か》と云《い》ふものアンドレイ、エヒミチは堪《こら》へ堪《こら》へて、我慢《がまん》をしてゐたのであるが、三|日目《かめ》にはもう如何《どう》にも堪《こら》へ切《き》れず。少《すこ》し身體《からだ》の工合《ぐあひ》が惡《わる》いから、今日丈《けふだ》け宿《やど》に殘《のこ》つてゐると、遂《つひ》に思切《おもひき》つて友《とも》に云《い》ふたので有《あ》つた、然《しか》るにミハイル、アウエリヤヌヰチは、其《そ》れぢや自分《じぶん》も家《いへ》にゐる事《こと》に爲《し》やう、少《すこ》しは休息《きうそく》も爲《し》なければ足《あし》も續《つゞ》かぬからと云《い》ふ挨拶《あいさつ》。アンドレイ、エヒミチはうんざり[#「うんざり」に傍点]して、長椅子《ながいす》の上《うへ》に横《よこ》になり、倚掛《よりかゝり》の方《はう》へ突《つい》と顏《かほ》を向《む》けた儘《まゝ》、齒《は》を切《くひしば》つて、友《とも》の喋喋《べら/\》語《しやべ》るのを詮方《せんかた》なく聞《き》いてゐる。然《さ》りとも知《し》らぬミハイル、アウエリヤヌヰチは、大得意《だいとくい》で、佛蘭西《フランス》は早晩《さうばん》獨逸《ドイツ》を破《やぶ》つて了《しま》ふだらうとか、モスクワには攫客《すり》が多《おほ》いとか、馬《うま》は見掛計《みかけばか》りでは、其眞價《そのしんか》は解《わか》らぬものであるとか。と、其《そ》れから其《そ》れへと話《はなし》を續《つゞ》けて息《いき》の繼《つ》ぐ暇《ひま》も無《な》い、ドクトルは耳《みゝ》が[#「耳《みゝ》が」は底本では「耳《みゝ》を」]ガンとして、心臟《しんざう》の鼓動《こど
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