りつけます。それがすむと朝ごはんのお給仕をして、縫物をして、それからお午になり、夕方になります。
だん/\、くらくなつていく窓をみてゐると、バルカは、なぜだかじぶんでもわからないなりに、ひとりでにほゝえまれて来ます。今にぐつすりねむれるよと、かう、くらやみが言つてくれるやうに思はれるからでせうか。しかし、夕方は夕方で、またお客さまが大ぜい来ます。
「バルカ、お茶の支度をおし。」
おかみさんがどなります。湯わかしが小さいので、お客さまに、のみたりるだけお茶をのませるには、水を五へんもさしかへなければなりません。
「バルカ、ビールをかつてこい。」
「バルカ、酒をとつてこい。」
「コロップぬきはどこだい、バルカ。」
「にしんを洗ふんだつてばよ。早くおしよ。」
やつと、お客さまはかへりました。あかりはけされ、親方もおかみさんも、寝床へはいつてしまひました。
「バルカ、ゆり籠をゆすぶりな。」
一ばんおしまひの命令です。
こほろぎがチル/\/\と鳴いてゐます。天井でぶる/\ふるへてゐる緑いろのあかるみ。ズボンや赤ん坊の着物の影。バルカは、そのうちに、またまぼろしをみるのでした。
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