た広い路がみえ出しました。路の両がはには、つめたいもや[#「もや」に傍点]をとほして岡がみえます。不意に、だれだか、袋をしよつた、影のやうな人が、グシヤッとぬかるみでころびました。
「どうしたの?」とバルカがきくと、
「ねむるんだ。ねむるんだよ。」と答へます。と、電線にとまつてゐる烏が、赤ん坊のやうに泣きわめいて、ねむつたその人をおこさうとします。
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「ねん/\よう。
ねん/\よう。」
[#ここで字下げ終わり]
 バルカはまたつぶやくやうにうたひます。すると、こんどは、じぶんが、まつ暗な、息のつまるやうな家の中にゐるのがみえて来ました。
 床の上にはお父つあんがねてゐます。お父つあんはとてもひどいぜんそくで、息をするのもやつとです。むろん口もきけません。たゞ息をはくたびに、車のやうなひゞきがのどからもれるばかりです。
「ぐる、るゝ。ぐるゝゝ。ぐるゝゝ。」
 お母さんは、お父つあんが死にかけてゐるのをしらせに、地主さまのところへいきました。さつき、もうずつと前にいつたのに、いつになつたらかへるのでせう。バルカは、はたにねころんで、お父つあんの「ぐるゝゝ」をきいてゐました。
 だれか、戸口に馬車をとめました。地主さまのおやしきからよこして下さつたお医者さまです。お医者さまは、家の中へはいつてきました。まつ暗なので姿はみえません。その人がせきをするのと、戸のきしるのだけがきこえます。
「あかりをつけろよ。」
 お医者さまがいひます。
「うゝ、ぐるゝゝ。ぐる/\。」とお父つあんが答へます。お母さんがかへつて、マッチをさがしはじめました。
「先生さま、ぢきでごぜえます。ぢきでごぜえます。」
 お母さんはかういひながら、ろうそくをともして、おもてへとび出して、先生と一しよにもどつて来ました。
「どんなぐあひだ。」お医者さまは、病人をのぞきこんで聞きました。
「おい、おかみさん、おまいたちは病人をほつぽり出しておいたんだな。」
「へえ、いや、先生さま、もうおむかへが来るんでさあ、どつちみちもう長いことはありません。」
「馬鹿。おれがなほしてやるよ。」
「お願えしやすだ。へえ、どうもありがとうごぜえますだ。でも、どうせ死ななきやあなんねえだら、やつぱり死ななけきやあなりません。」
「これあ病院にいれなけれやあだめだよ。」
 お医者さまは、診察をするといひました
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