冬になると、たちまち僕は口が乾《ひ》あがって、病みついて、いらいらして、乞食《こじき》も同然の境涯に落ちこんで、――運命の追うがままに、所きらわずほっつき歩いたもんです! それでもやっぱり僕の心は、夜も昼もたえず、いついかなる瞬間にも、一種なんとも言えぬ予感に満たされていました。僕は幸福を予感します、アーニャ、僕にはもうそれが見える……
アーニャ (もの思わしげに)月が出たわ。

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エピホードフが相変らず同じわびしい歌を、ギターで弾いているのが聞える。月がのぼる。どこかポプラの木のへんで、ワーリャがアーニャをさがしながら、「アーニャ! どこにいるの?」と呼んでいる。
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トロフィーモフ そう、月が出ました。(間)そら、あれが幸福です。もうやって来た、だんだん近づいてくる。僕にはもう、その足音がきこえる。よしんば、僕たちにそれが見つからず、ああこれだと悟る時がないにしても、それがなんです? 誰かが見つけますよ!
ワーリャの声 アーニャ! どこにいるの?
トロフィーモフ またワーリャだ! (忌々《い
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