のうから下《しも》の部屋で待ってるよ、ちょっと会いたいって……
ヤーシャ ちえっ、うるさいったらありゃしねえ!
ワーリャ まあ、いけ図々《ずうずう》しい!
ヤーシャ 余計なこった。あすでも来りゃいいのにさ。(退場)
ワーリャ お母さんは相変らずで、ちっともお変りにならない。勝手にさせておいたら、何もかも人にやってしまうわ。
ガーエフ そうさ……(間)何かの病気にたいして、あれもこれもと、いろんな薬をすすめるような時は、つまりその病気が不治だというわけだ。わたしも、脳みそをしぼって考えてるんだが、するといろんな手が浮ぶね。あんまり沢山あるもんで、つまり本当のところは、一つもないということになる。誰かの遺産がころげこめばよし、アーニャを大金持のところへ嫁にやるのもよし、それともヤロスラーヴリへ出かけて行って、伯爵《はくしゃく》夫人の伯母さんにぶつかってみるのも悪くはあるまい。伯母さんは、とてもどえらい金持だからな。
ワーリャ (泣く)どうぞそうなればねえ。
ガーエフ 泣かないでもいい。伯母さんはとても金持なんだが、われわれ兄妹《きょうだい》がお好きじゃない。だいいち妹が、貴族でもない弁護士
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