てがみ
アントン・チエーホフ Anton Chehov
鈴木三重吉訳

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)お母《つか》さん

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ひねり/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 ユウコフは年はまだやつと九つです。せんには、お母《つか》さんと一しよに、ゐなかの村のマカリッチさまといふ、だんなのうちにおいてもらつてゐました。お母さんはそのうちの女中になつて、はたらいてゐたのです。そのお母さんが死んでしまつたので、ユウコフもそのお家にゐられなくなり、人の世話で、三月まへから、この靴屋の店へ、奉公にはいつたのでした。
 こよひはクリスマスの晩です。ユウコフは親方や兄弟子たちが、教会からかへつてくるまでは、どんなにおそくまでも、ねむらないで、まつてゐなければならないのです。ユウコフは一人ぼつちで、さびしくてたまらないので、戸だなから、そつと親方のインキつぼをもちだして、さきのさゝくれたペンで、しわくちやの紙へてがみをかきだしました。だれよりも大すきな、あのマカリッチのだんなへ出さうとおもひ
次へ
全9ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング