みられ、所謂「話術」といふやうなものと別個に、例の誘導的な叙述の呼吸が文章の風格として読者を惹きつけたのである。
それはさうと、私が今、特に問題にしたいのは、日本文学の伝統のなかに、「雄弁」なるものが特殊な地位を占めてゐないといふことは、今日、われわれの「戯曲文学」が非常に立ち遅れてゐる最も大きな原因になつてゐるといふ事実なのである。この問題はもつと詳しく論じなければ、成る程と思ふ人は少いかも知れぬが、私は、このためにでも、将来、日本に於ける「雄弁」の歴史を調べてみたいと思つてゐる。
セヴィニェ夫人の如き、その「書簡集」一巻をもつて堂々とフランス古典作家の列に加つてゐるといふやうなことは、まことに示唆に富む現象であつて、西洋人の「手紙」は、云ふまでもなく、古い「雄弁」の枝に咲いた一個の花なのである。(「文体」昭和十四年五月)
底本:「岸田國士全集24」岩波書店
1991(平成3)年3月8日発行
底本の親本:「現代風俗」弘文堂書房
1940(昭和15)年7月25日発行
初出:「文体 第二巻第五号」
1939(昭和14)年5月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年11月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング