、しかもそれ以上に彼等東亜諸民族にとつて魅力あり、渇仰おくことのできぬやうな「何物か」をわれわれが如実にもたらすことが絶対に必要であります。
 私は、それこそ、「日本人の優にやさしき心」以外にはないと信じます。それは決して人に示すための作り物であつてはなりません。われわれの日常の生活、一人一人の言動のはしばしに、おのづから示される品位と温みとであります。
 昭和の戦陣訓も、将兵に諭すに、「ゆかしく雄々しく」あれと云つてをります。
 武力そのものにさへ、「ゆかしさ」を添へなければ日本の武士道は成り立ちません。まして、武力の後に平和の建設に従ふわれわれは、弱みにつけ込む浅間しさと、徒らに人情家を衒ふ親切の押売りを排した、堂々たる兄貴振りをみせたいと思ふものであります。これはもう、「心掛け」とか「自粛自戒」とかいふ程度の間に合せでは駄目なのであります。
 日頃、しかも、若い時分から、自らも鍛へ、人にも鍛へられて、錬りに錬つた精神と生活の自然なあらはれが物を言ふのであります。日本人の真の優秀さといふものは、かういふ形で先づ世界に誇り得るものとならなければなりません。
 今更らしく、私がかういふ
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