題を処理する微妙なコツ――いひかへれば、人間心理の洞察力と生活感情の豊かさが、知らず識らず、事務を事務に終らせないで、一般の自発的協力を導きだす強味になつてゐるのではないかといふことである。
文化運動の出発点は実にこゝにあるのであつて、仮に国策として要求された、ある種の実践運動がいはゞ「物質的」或は「経済的」な問題に属してゐても、これを次ぎ次ぎに徹底させ、効果をあげて行くためには、どうしても「文化運動」としての一面がこれに加はらなければならぬと私はかねがね信じてゐる。それはつまり簡単にいへば「表現の魅力」といふことである。言葉の綾といふやうなものでは絶対になく、人間の心と心とが触れ合ひ、そこに美しい共感の生じるやうな表現をもつて愬へかけることが絶対に必要である。
戦時下文化運動の目的は、地域的にはもちろん、生活力の強化になければならぬ。それを離れて単なる教養も娯楽もないのである。そして、生活力の強化は単に一時凄ぎといふやうな消極的な方策によつてかち得られるものではない。是非とも、目標を遠きにおいて隣組なら隣組の家族化、町内会なら町内の郷土化といふ方向に向けられなければならぬと思ふ。
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