のを面白いと思つた。
「文弱」とは正確にはどういふ意味であるか、語原的な穿鑿は私もしたことはない。
しかし、第一に、「軍人勅諭」に、軍人は文弱に流れてはいかぬと仰せられてある。
質素を旨とすべしといふ御諭示のなかにその言葉が使はれてあり、従つて、質実剛健の気風と相反する傾向を指したものであらうと思はれるが、軍人仲間、殊に陸軍の将校生徒らは、少くとも私の嘗てさうであつた時代には、この言葉をやゝ特別な意味にも用ゐてゐたやうである。
即ち、学課はよく出来るが、教練とか武術とかは不得意なものを往々にして「文弱の徒」と呼び、言語動作が活溌でなく、神経質であつたり、瞑想的であつたり、身なりを気にしたりするやうな輩にもこの言葉が当てはめられる。殊に、同じ学課でも、図画や作文を好み、外国語に熱中し、仮に体操の時間を頭痛がすると称してサボリ、許可されてゐない書物など読み耽るものがあつたら、これこそ「文弱」の尤なるものであらう。
それからまた、女の話などする奴も、文弱の類ひに入れられる。抑も異性との恋愛なるものは、文弱から生れるものだといふ信念をもつてゐるのである。
彼等の思想、言論のはしばしに
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