落したといふ話を、その晩、人々は話し合つてゐた。
私は西門で自動車から降されると、衛兵所で○○○○室の所在を尋ねた。
生憎、さう大きくはないが手提鞄をひとつ持つて来てゐるので、こゝで降されてはちよつと困るのである。それでも私は教へられた方向へとぼとぼと歩きだした。道は白く乾いてゐて恐ろしく埃つぽい。城門に近いあたりは、場末らしい低く不揃ひな家が軒をつらね、往来では物売りが店をひろげ、そここゝで子供も遊んでゐる。
突然、後から足ばやに追ひついて来るものがある。お巡りさんであつた。いきなり私の提げてゐる鞄を取り上げようとする。私は放さない。なにやら、声高に云ふ。わからないが、察するところ、道案内をしてくれるものらしい。おまけに、鞄をもつてやらうといふのだから、これは、すぐには私に通じない筈である。
保定警察局といふ看板の出てゐる比較的立派な建物の前に来た。丁度そこに憲兵隊の自動車が待つてゐたので、運転手台にゐる兵隊さんに、私の会ひたいと思つてゐる人の名前を云ふと、やはりこの建物のなかで訊いてみろと教へられ、やつと安心した。
私は、刺を通じて署長に面会を求めた。署長室へはひるや否や
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