にしても女は飽くまでぢつとしてゐて、男がお使ひをする仕組が、デパートだけに面白い。やはり、支那の習慣としてはそれが当り前なので、女をこき使ふのは日本だけの美風だと一時は思つたが、これは独断を避けるためにもうひとつの見方をせねばならぬ。即ち陳列品から一つ時も眼をはなせない土地柄だといふことだ。
空の一騎打
荷物を半分ホテルの帳場へ預けて、朝早く飛行場へ駈けつける。
白状すると、私は、飛行機といふものに乗るのはこれがはじめてゞある。
それほど急ぐ旅をする必要もなかつたし、また、なんとなく億劫でもあつたから、つい食はず嫌ひみたいなことになつてゐたのだが、いざこれからあの機械で空中何百尺の高さを飛ぶのだぞと自分をおどかしてみても、一向危きに近づくやうな気はしない。それどころか、いよいよこれから鉄砲の弾丸の下をくぐるのだと思ふと、乗り物がなんであらうと問題にならぬといふのがほんとの気持であつたらう。
空中飛行の感想などは時節外れだからやめにするが、天津の街を真下に眺めた時は、夢うつゝで自分の在りかを捜すやうな錯覚に陥つた。
が、それでも、高度八百といふ指針に眼を据ゑ、プロ
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