で、私は挨拶を述べた。
「私はこの度、雑誌文芸春秋の特派員といふ資格でこゝへやつて来ました。しかし、私は元来、ジヤーナリズムのエキスパートではありませんし、さういふ角度から、この事変の現地報告をする能力も興味もないのです。
私はたゞ日本の一作家として、戦乱の地を訪れ、自分自身のためにも若干の新しい体験を、また、私の読者のためには、なるべく冷静に今度の事変の性質、及びその結果を考へてみる材料をもたらしたいといふのが、本来の希望であり、任務なのであります。
実は、十分の暇がなく、非常に短時日の旅行なのですが、ともかく、石家荘まで行つてみました。それからつい一両日前北京へ着いたところです。北京の街は、なるほど、見たところでは、不幸な戦禍を免れてゐるやうに思はれます。しかし、民心はどうでありませうか。旅行者たる私には、一種解し難い時局の謎もあります。そこで私は、この機会に是非、御国の知識人から、出来るだけ率直な御意見を聞かしていたゞけたらどんなに参考になるだらうといふ考へを起しました。しかも、それが必ずしも不可能でない最大の理由は、今度の事変が幸ひに国民と国民との争ひでないといふこと、お互
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