おぼえてゐるよ、あなたの学校は不好《ブーハウ》と云つたでせう」
「……」
「お前達は知つてるの、お前達の排日デモンストレーシヨンが今の戦争を惹き起したんだつてことを」
 姪は首を垂れて何も云はなかつた。しかし心中甚だ不安の様だつた。
          ×          ×
 うちの兄がラヂオを一つ買ひました。米国のフイルコ会社の製品ださうだ。一寸ヒネつて燈をつけると、世界各国の音楽が聴けるさうだ。そのラヂオは大変高い。兄は三百円つかつたさうだ。
 兄はなぜこのラヂオを買つたかといへば、英米の放送局の音楽をきゝたいからではない。私は夙《とう》から知つてゐる。彼は南京の放送局からニユースを聴かうとしてゐるのだ。
「駄目だ、聞えない」
 或晩、かう叫んで彼は癇癪を起した。
「誰かゞチーチーペンペンとラヂオの放送を邪魔してやがる。一言も聞えやしない」
 兄はそれからスヰツチをヒネつてもみない。ラヂオは床の上に淋しく立つてゐる。その函の上には埃が一杯たまつてゐる。
 私はこのラヂオを見て、
 ――国家の地歩はどこ迄落ちゆくのであらう(国家地歩落到那辺)――
と、独り問ひ独り嘆じて心中不安に
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