ゐることは云ふまでもない。
 さう云ふわけで、今度、友人鈴木君から同君らの計画になる「仏蘭西文学の叢書」の刊行に当つて、僕にも小説を一二冊訳して見ないかと云ふ勧めがあつた時、実は、潜上の沙汰と知りつゝ、ルナアルのものならばと云つて、それも始めて読む「葡萄畑の葡萄作り」を、アナトオル・フランスの、これも僕の選択で「鳥料理レエヌ・ベドオク」と共に引き受けてしまつたのだ。
 あなたの小説のうちで、一篇だけ代表的なものを選び出すことは六ヶ敷いやうに思ふ。然し、あなたの面目が最も躍如たるばかりでなく、僕自身が一番惹きつけられ、その上、比較的――誠に卑怯な話だが――訳し易いと思つたのは、此の「葡萄作り」だつた。尤も此の最後の予想は、翻訳の半ばから見事に覆された。
 戯曲以外のあなたの作品を読みながら感じたことは、あなたの戯曲を読み、それを舞台の上で見た、その時に感じ、それ以来、感じ続けてゐる感じを、一層濃厚に、一層広く、一層鮮明に、一層深くしたものと云ふ一言に尽きる。
 そもそもあなたは、恐ろしいほど正直にものを言ふ人だ。ぶつきら棒だが、横柄でなく、皮肉のやうで、その実、刺はない。馬鹿にされてゐる
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