今に始まつたことではありません。
 私はこゝで、わが「明日の劇壇」のために、日本の現在にのみ適用する二三の希望を陳べておきたいと思ひます。
 先づ第一に、これからの戯曲は文学としての評価に甘んじてはなりません。これは既に云ひ尽された議論であるかの如く見えますが、所謂「舞台的」といふ言葉が、もう一度吟味されてからのことです。
 次に、これからの俳優は、所謂「演出者」の傀儡でなく、この点、もう一度「新劇以前」への逆戻りであつてかまひませんが、先づそれぞれ人間としての特殊な魅力を養ふべきです。
 更にまた、これからの演出者は演出者である限り、俳優の「領分」に立ち入つてはなりません。それよりも、俳優に自分の「領分」を荒されないやうにすることが肝腎であります。
 最後に、これからの観客は「面白くないもの」をはつきり面白くないと云つてかまはないでせう。欠伸を噛み殺して徒らに感心する必要はないのです。その代り、面白かつたら、遠慮なく盛んな拍手を送り、俳優に俳優たるの幸福を満喫させていたゞきたい。これはこれからの演劇のために、一般が与へ得る唯一無上の協力であります。



底本:「岸田國士全集21」岩
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