も、この明瞭な事態に処する道を講じてをらぬかのやうだからである。
私はそれでも機会ある毎に、当事者を説いた。必要は認めるが、なかなか手が廻らぬといふ返事を聞かされることもあつた。すでに、名目だけでも、これに類する施設をもつてゐる場合、どうして、実績を挙げ得ないか?
この点、いはゆる新劇の団体は、より遠い将来を目指してゐるから、それぞれ、研究所をもち、研究生の養成に努めてゐるが、私の知つてゐる範囲で、これに応募する青年男女の数は意外に多く、一週間に二百人を突破した例さへあるのである。ところが、実際、劇団所属の研究所といふものが、首脳部の良心的配慮と、指導者の犠牲的奉仕にも拘らず、常に満足な結果は得られないのである。経費と組織の上から、勢ひ、例の速成にならざるを得ないからである。
一方、映画の方面は、これこそ年々志望者は増すばかりである。彼等の往くべき道は、たゞ、映画会社の採用試験にパスすることだけで、それから後は人間としても芸術家としても、殆ど伸び育つことができないのである。たまたまポスタアの上に名を連らねる好運に遇つても、十年後にはどうなるか? 大部分は職業的にも無用の存在とな
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