壇の此の一文に対する反響を見てからにしたい。
僕は、つくづく、現代の日本で、戯曲を書くことの馬鹿馬鹿しさを感じ出した。これなら小説を書いたつて、同じことだといふ気がする。人の書いたものでも、現代劇として立派な舞台を、絶えず見せて貰へるんだつたら、自分のものが、いつまで舞台にかゝらなくつても、それはなんといふ張合ひのあることだらう。自分のものが、決して舞台にかゝらないといふことがわかつてゐても、戯曲を書くことそのことが、ほんたうに活きた仕事になるだらう。
今日既に在る劇場や俳優を敵とする必要は毛頭ない。そんなものを攻撃したり、軽蔑したり、威したりすかしたりしてゐるひまに、これからの劇場と俳優に「呼びかけ」る方が、遥かに、われわれの仕事を「ほんたうのもの」にする所以である。
われわれは、前に進む為めに、あまりに後ろを振り返りすぎる。
底本:「岸田國士全集19」岩波書店
1989(平成元)年12月8日発行
底本の親本:「我等の劇場」新潮社
1926(大正15)年4月24日発行
初出:「文芸日本」
1925(大正14)年5月1日発行
※底本は、物を数える際や地名な
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