翻訳について
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)文体《スチイル》
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翻訳といふ仕事は、いろいろ理窟のつけ方もあるだらうが、大体に於て、翻訳者自身のためにする仕事なのである。翻訳を読んで原作を云々するのは非常に危険だといふやうなことも云へるし、また翻訳は一つの文化事業であるといふやうな口実もあるが、翻訳そのものは金になるならないに拘はらず、誰でもやつてみるといいのである。
翻訳するといふことは、原書を少くとも十遍繰り返して読むことである。
翻訳をやつてみると、自分の語学力の底が知れるのである。
翻訳をしながら、おれはこんなに日本語を知らないのかと思ふだけでも、たいへんな薬になる。
最初一度読んで面白かつた本が、翻訳をしながら、或はしてしまふと、つまらなくなる場合がある。大した代物ではなかつた証拠である。
出来上つた翻訳を読んでみて、原文の面影が伝へられてゐるかどうか、そんなことはわかるもんぢやない。わかるのは、翻訳の文章がうまいかまづいかである。
いろいろの作家のものを翻訳するのに、その翻訳者が、彼自身の文体をもつてゐることは、
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