編輯当番より
岸田國士
少しは面倒な仕事、柄にない仕事でも、みんなが順番にやるといふことになると、私はなんとしても厭やとは云へない。順番に何かの役目が廻つて来るといふことは、誰にでも幾分か楽しいことではないかと思ふ。人間生活の自然な相を映してゐるやうでもあり、秩序の観念の理想的な表示ででもあるやうな気がするためであらうか。私は、さういふ楽しさを子供の時分から楽しむ傾向があつた。楽しまねばうそだといふ風に考へてゐたのかも知れぬ。自分だけを特別に扱ふことは性来好まないのである。さて、自分の思ふやうに雑誌を編輯すると云つても、既に同人が何かしら書くことにきまつてゐるのだし、頼んでも書いてくれない人がゐるしするのだから、さう勝手な真似は出来ない。
が、二三特別な題目を選んで、当番の責任をふさぐことにした。
私はこれを文学の専門雑誌、或は文学者の道楽雑誌にしたくないと考へた。どつちにしろ、かゝる片々たる小冊子が、何を目論んだところで、それだけで大したことはできつこないのである。云ひたいことは何処でゞも云へるし、云へないことは何処でだつて云へないのだから、この雑誌が特別な色彩をもつとしたら
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