、まづ琴を手始めに三絃、尺八、謡、小鼓といふ順に手がけて来た」といひ「それもちよつと門口をのぞいて見たといふ程度でなく、かなりなところまで深入りしたものである」
と氏の謙遜癖にも似合はぬ口ぶりで察せられる通りに、そのうちあるものは家元の直系を伝へてゐるとは驚くべきことである。
私も、或る日招かれて公の席における氏の演奏ぶりを「拝見」したことがあるが、実のところ、私の耳はこの古典的な邦楽器の音色を聴き分ける能力はなかつたのである。たゞ、内田百間氏との合奏が殊にこの「桑原会」の呼び物らしいので、講堂の聴衆と共に私も小鼻に力を入れて舞台を凝視してゐたにすぎない。
ところがこれらの随筆を読んで、私は実のところ氏の音楽的天分と薀蓄とに更めて敬意を表せざるを得なくなつたことを告白する。
最後に「雪の底にて」といふ小説が一編加へられてゐる。二十年前の作と断つてあり、それが書名の「思出」といふ意味にもつながるのだと知つて、私は二重の興味をもつて読んだ。
嘗ての人道主義時代を振り返る必要はない、一言にして云へば、これは米川氏の文学的生涯を貫く永遠の青春の歌であらう。
底本:「岸田國士全集2
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