ある。それを利用するしないは国家の勝手であるが、仏蘭西の勲章で思ひ出した一つの話は、嘗てアントワアヌが自分の管理するオデオン座の経済的窮境を救ふため、時の首相クレマンソオに宛て、無心状を書いた。それは、政府の補助金を増してくれといふかはりに、「レジヨン・ドヌウル」をある男にやつてくれといふのである。クレマンソオはアントワアヌを信ずること篤く、その男とは誰だとも訊かず、よしツと云つて承知した。云ふまでもなく、アントワアヌはその勲章を種に、ある男から莫大な金を引き出したのである。オデオン座は生き返つた。世間は何も知らない。日本でもこれくらゐの芸当は演じられてゐるのかもしれないが、事、芝居に関する限りでは甚だ疑はしい。
今日まで社会には社会的地位といふものがあつて、その地位を明かにしてやるため、国家が勲章の制度を利用してゐる、といふ風に今日の仏蘭西などでは見えないこともない。ところが先年小説家ヴイクトオル・マルグリツトが、「ギヤルソンヌ」といふ小説を発表したら、その小説が仏国の体面に関するものであるといふ理由で、賞勲局は、マルグリツトのコンマンドウウル(勲三等)を取上げた。「ギヤルソンヌ」
前へ
次へ
全6ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング