の手で作り上げる正しい方向を発見することが、今日の文学者に課せられた一面の仕事であると思ふ。
この運動に参加する文学者たちのそれぞれ聴衆に愬へようとする課題はまちまちであらうけれども、単なる個人的意見を通じて、一人の人間の特異な所在を知らしめることはさほど重要ではないと思ふ。
国民は今、祖国の直面する運命をひたすら凝視し、自己のおかれた場所に応じて、十分の義務を果し、且つ、その義務に反せざる限り、安全に身を護らうとしてゐるのである。この心理は自然である。それゆゑ、義務がこれを命ずれば献身もいと易いといふのが、われわれ日本人の常態である。
しかしながら、義務を義務と感ぜしめるものは、国民全体の高貴な精神の昂揚にあることはもちろんで、この点、わが国の為政者は、もつと時代の表現を身につけた一種の詩人であつてもらひたいと私はかねがね思つてゐるのである。
文学者は幸ひにして、時代の言葉をもつて自己の信念と理想とを語る術を心得てゐる。国民はその言葉を、自分みづからの言葉として聴くであらう。そこには自己陶酔による徒らな鼓舞や激励や叱咤はない代り、政府の代弁者たちのもたぬ反省もあり、自責もあ
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