、精神と物質との微妙なつながりの上にたつて、人間生活の全面に亘り、合理性と気品と真の勇気を与へる尺度なのであります。
 この「人間的反省」は永い訓練の歴史を必要とし、道徳の最も健全な論議によつて生れるものでありますが、固定した社会制度、政治の圧力、民族的孤立、特に一般民衆が異民族と対等の交渉をもたなかつたといふ状態などによつて、屡々見失はれるものであります。
 その意味に於て、今日の時代は、東洋の黎明であると私は信じたいのです。なぜなら、社会万般の制度はまさに一転機にのぞんでをり、政治は下意上達の道がひらかれ、特に、民族の相互接触と共に、大規模な共存共栄の形が日常生活の上で具体化しつゝあるのであります。
 永久対立を前提とする狭い民族意識からの飛躍は、云ふまでもなく民族と民族との人間的理解を要求するのでありまして、わが日本民族は固より、率先して深くこの問題を究める覚悟がなくてはなりません。

       六

 話がこゝまで来ましたら、いよいよ本題にはひりますが、現在、国防国家の体制を整へ、国家総力戦の実績をあげるために、政治、経済と並んで、文化諸部門の動員が企てられてをりますが、皆
前へ 次へ
全18ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング