として浮び上つて来たのである。
従つて今日までは、文化的専門領域内に於ける技術の習得が一つの職能であり、また職業であつた。しかるに今後は、さういふものも依然あつて良いけれども、同時に新しい二つの方向が考へられなければならなくなつた。
一つは、文化各専門領域の政治的運営といふ方向、即ちそれぞれの領域を国家目的に応じ如何に進歩発展せしむべきか、またこれを如何なる理念によつて統一すべきかといふ問題等々に関し、或ひは国家行政の面に、或ひは経済の面に働きかける一つの仕事がこれである。
もう一つは、それぞれの専門領域を国民生活に結びつけ、所謂「文化」と「生活」との有機的な交流をはかり、これによつて各専門領域の発展を飽くまでも生活から遊離せしめず、また国民生活の文化水準を高めるといふ仕事がこれである。
この二つの仕事の方向は今後益※[#二の字点、1−2−22]広範囲にわたつて研究され、またその結果が実践に移されて行くことと思ふが、現に今日まででも、たとへば学術の領域では学術振興会とか、科学動員協会とか、いふやうな機関が、その役割を果しつゝあるし、芸術の分野に於ては、例へば最近結成された、日本文学報国会とか、音楽文化協会とか、更に美術報国会、日本移動演劇連盟とかの、事業団体がこれである。更に最も時局の要請として一般の期待がかけられてゐるのは、工場・事業場の労務管理関係である。この仕事は最も文化的な智能と感覚とを必要とするのであつて、恐らくこの方面に於ける人材の払底は、生産面に於ける最も大きな悩みとなつてゐるのである。尚新しい文化的な職域として、最近結成される各種の公共団体の文化部或ひは教養部、厚生部の仕事がある。大政翼賛会、大日本婦人会、青少年団、産業報国会などは、いづれも文化部及びこれに類する部門を設けてゐるのである。尚また相当古い歴史をもちながら、従来は一般の関心を引くほどでもなかつたやうな文化団体が、或ひは機構刷新によつて、或ひは主脳部にその人を得たがために、この時局下に於いて活溌な動きを見せ、その事業の成果にも期待すべきものがないではない。結局かういふ方面の仕事が、単なる事務としてではなく、遠大な志を抱く青年の情熱を燃すに足る職場として考へられなければならない時代である。
[#7字下げ]四[#「四」は中見出し]
私は最近或る必要のために、「文化」といふ立場から
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