すまい。しかし同じく困苦に耐へるにしても、国民全体は、もつともつと元気に、希望をもつて、明日の戦ひにのぞまなければなりません。それがためには、日本人同士は、どんなことがあつても人を見殺しにはしないといふ、お互の強い信頼があつてほしい。それからまた、われわれがほんとに力を合せ、一緒に智慧をしぼれば、まだまだいくらでも余裕がでるのだといふ安心もあつていゝと思ひます。たゞ、もつと本気になつて、政府も国民も、現在の文化の弱点がいつたいどこにあるかを知らうと努めなければなりません。この方面にいくぶん力の入れ方が足りなかつたのが、今日の新体制を生んだ最大原因だと云つてもよろしいので、今からでも決して遅くはありません。官民協力、経済翼賛の実をあげると共に、上下一体、文化翼賛の美果を結ぶところに国防国家の力強い体制が完成されて行くのです。この意味でわれわれは、当面の生活秩序を一日も早く整へ、世界文化の母胎たる新国民文化を創り上げるために、永遠の計をめぐらさなければなりません。
 日本には昔から立派な独特の文化があります。この香り高い日本文化の伝統をもう一度現代の生活のなかに生かし、一方海外文化の長所を吟味採択し、その上に立つて、ほんたうにわが民族の天賦を誇り得る、東亜新文化の樹立を先づ完成することが急務であります。そしてなほこゝに反省すべきことは、今までの政治といふものに対する国民大部分の考へ方です。政治は政治家だけがやつてくれるものといふ考へ方、国民は政治がどういふ風にやられてゐるかといふことに全く無関心でゐたことは、なんといつても大きな間違ひです。
 今度の新体制が確立した暁は、「政治」も、今までのやうな民衆の心持から離れた政治ではなく、真に万民翼賛の名に値する明るい政治になる筈で、そこではじめて日本らしい日本の姿が浮びあがるわけであります。
 われわれは今こそ夢をもたなければなりません。そしてその夢を一人一人にでなく、みんなが力をあはせて、徐々に実現させていかなければなりません。
 それには、先づわれわれの日常生活を計画的に樹て直すことが絶対に必要なのであります。その詳しい具体的の方法は、いづれ発表します。

       三

 国民生活に根をおろし、その上に自然に実を結ぶ所謂学問芸術は、それぞれの専門家はゐますけれども、国民全体の責任に於てこれを発達助長させなければなりま
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